harmonia ensembleの「Lux Aeterna」の録音はSound Inn Bstにて行われました。今回はアルバムのコンセプトが5.1chサラウンドでの録音を活かしたものであり、シアターピースやダブルコーラス、サウンドスケープなど空間全体を1つの音楽として捉える作品であるため、録音の段階からサラウンドでのモニターとなりました。一般的に映画音楽など5.1chサラウンドの音楽作品であっても、録音は2chステレオでモニターして、ミックスの段階で5.1chサラウンドにするのが一般的なので、滅多にない貴重な体験です。
マイキングはスタジオ全体の響きを録ることに重点をおき、スタジオの中央に3本のNEUMANN U67S、両サイドにB&K 4006がどれも高い位置にセッティングされました。そしてコントロールルームでは、サラウンドでモニターするために6本のスピーカーとパワーアンプのラックが置かれます。
レコーディング本番はアレグリの「ミゼレーレ」から始まりました。この曲はCHOIR 1とCHOIR 2の二重合唱で構成されており、今回の録音ではCHOIR 1はメインフロアで、CHOIR 2はBstの2階(Bstには録音ブースの中、メインフロアのはじに階段があり、その先にはガラスで仕切られた部屋=通称heavenと、ベランダのような通路=通称Balconyがあります)に上がっての録音となりました。
サラウンドで大聖堂のようなリバーブ感でモニターすると、2階のCHOIR 2が空から降ってくる天使の歌声のように響きます。今回のアルバムの作品の中でも、特にサラウンドで聞いて欲しい1曲です。
「マジック・ソングズ」は様々な生き物の鳴き声、様子、自然の姿・人間が破壊してきた自然・動物の思いがハーモニー・音色で表されている曲集です。歌詞も意味を持った言葉ではなく、足を踏み鳴らしたり、ジャンプしたり、と色々な形の表現があります。頭で考えて理解するだけでなく、感覚を研ぎ澄ませてこの世界観を味わってみると、自分の中に新しい世界が広がっていくようです。
「芭蕉の俳句によるプロジェクション」は松尾芭蕉の俳句を現代音楽で表現した曲集。様々な声・歌い方が使われていて、能や狂言の「うたい」のような声もあり、松尾芭蕉の俳句をあまり知らなかった私は、はじめてじっくりと俳句を読み、その世界をharmonia ensembleの歌声で感覚的に味わうことが出来ました。ダイナミックレンジの広い曲も多く、ハイレゾで聴くと、より一層味わい深いのではないでしょうか。
「コンダリラ」は、harmonia ensembleが何度も様々な場面で演奏している曲で、タイトルはオーストラリアの滝の精の名前です。オーストラリアの自然・ジャングルが表現されています。南国の鳥や虫、動物の声があちこちから聞こえてきて、まさにジャングルに迷い込んだようです。そして譜面も迷います。何しろ、テンポはフリーなのに、1番最初の音がフェルマータです。色々な声があちこちから聞こえてきたり、重なったり、不思議な響きが広がり、最後はまさにジャングルの音です(譜面にはAustralian bush soundsと書いてあります)。この曲は男性が全員2階へ上がって、女性はメインフロアのあちこちに広がって録音しました。どんな世界ができあがったのか、是非聴いていただきたい1曲です。
「永遠の光」は、アルバムのタイトルにもなっていますが、美しい響きのレクイエムです。宗教音楽の合唱作品は、e-onkyo musicでも多数配信されていますが、日本のコーラスアンサンブルの作品はほぼないですし、これほどのクオリティの作品は他にはないのではないでしょうか。harmonia ensembleの合唱のすばらしさを分かりやすく伝える1曲です。是非ハイレゾでお楽しみください。
このアルバムは頭で理解しようとすると、難解な楽曲が多いかもしれません。ですが、まずは聴いてみてください。音楽的な知識や経験がなくても、聴けば素晴らしさが分かります。harmonia ensembleの作品は、今後も出る予定です。そちらもまた、楽しみにしていただけたら、幸いです。