▼ メディア掲載情報
- 日刊レコード特信(2015年8月6日号)
- 連合通信レコード速報(2015年8月7日号)
- 映像新聞(2015年8月10日号)
- ORIGINAL CONFIDENCE(2015年8月17日号)
- MJ 無線と実験(2015年12月号)
- ㈱音元出版のAV/オーディオ/ガジェット情報サイト「Phile-web」(2015年8月10日版)
- Gaudio+PCオーディオfan(2015年8月10日版)
- KK KYODO NEWS SITE(2015年8月10日版)
- 話題の情報を発信するサイト OVO[オーヴォ](2015年8月10日版)
- オーディオ・ビジュアルのポータルサイト「Stereo Sound ONLINE」(2015年8月10日版)
サウンドインでハイレゾ配信をやろうという話が出たとき、真っ先に思い浮かんだアーティストが林正樹さんでした。彼とは、もうかれこれ10年ぐらいのお付き合いになるのですが、これまではアーティストとしてではなく、所謂「スタジオミュージシャン」としてピアノを弾いてもらうというという形でのお付き合いがほとんどでした。それでも、彼のプレイにはいつも、録音している私の心を躍らせる「何か」がありました。その「何か」とは、表現は難しいのですが、彼のプレイしたピアノの音そのものだけでなく、その場を取り巻く空気感のようなものを含めた中にあることは、これまでの経験の中で強く感じていた部分でもありました。その感覚をリスナーの皆さんへ確実にお伝えするには、CDでは物足りない気がしていたのです。
レコーディングに当たり、林さんと話したことは、所謂スタジオ録音(セパレートが良く、音像がくっきりしている)のような音ではなく、トリオとしての自然な演奏を空気感ごと録音しようということでした。
そこで、以下のような方針を定めました。
1;スタジオライブのように一発録りで行う。
2;ミュージシャンはヘッドフォンをつけず、直接コンタクトを取りながら演奏する。
3;以上のことを実現するため、まず楽器配置を決め、それからマイクアレンジをして行く。
普通に考えれば別に変な話ではなく、むしろ当たり前のことなのでしょうが、普段レコーディングスタジオで行われているレコーディングは、それとは正反対のことをやっているのです。
一般にレコーディングにおいては、個々の楽器の音質を最大限に高めるために、出来るだけセパレーションを良くしようとします。楽器間の距離をとったり、別のブースに分けたりするのです。そうすることにより、非常にクリアー且つ音楽的にバランスの取れたミックスを作ることが出来ます。しかし逆に言えばミュージシャンはコントロールルームで録音された音を基準に(ヘッドフォンでモニターしながら)自らの演奏を行っており、空間に解き放たれたグループ全体の音を聴きながら自らの演奏のフィードバックを行うという、ライブにおいては普通にやっている行為からはかけ離れたものになっている可能性は否定できません。もちろんこれはどちらがいいという話ではなく、あくまでそれぞれの音楽の魅力を最大限に引き出すための方法論の問題なのです。最初に書いたとおり、林さんの音楽には空気感がとても重要な要素であると思っていたので、今回のレコーディングはそれを一番大事にしようと考えたのです。
結果として各楽器はかなり近接した配置となり、それぞれのマイクには他の楽器の「カブリ」が多く入ってしまいました。そのため、それぞれの定位は若干甘くなっていますし、正直に言うと若干の位相干渉も起きています。位相干渉を避けるには、2chマイクアレンジによる録音方法もあるのですが、今度は逆にスタジオ自体の壁面などの反射音によるカラーレーションがおきてしまいます。これらのことを総合的に考え、マイクアレンジを行っています。
また、今回のアルバムではレコーディングの空気感を出来るだけそのまま伝えたいという思いから、DSF2chの配信ではスタジオ録音時のモニターをそのまま収録して配信しています。DSD録音は、とても自然な響きがして大好きなフォーマットなのですが、厳密に言うとDSDドメインでは編集が出来ません。そこで今回はその特性を逆手に取り、レコーディング時のモニターの音に一切の手を加えず、「産地直送取れたて新鮮!」を売りにしていこうと思ったのです。ですからレコーディング時に迷って上げ下げした若干のマイクバランスやトータルのレベルなど、不ぞろいな部分もそのまま残っています。個人的にはとても恥ずかしいのですが、あえて産地直送を謳う以上、そこもそのままにしておくことにしました。
WAV版(2ch,5.1ch共)は、レコーディングの後、アナログコンソールにてミックスを行い、バランスや音色を整え、さらに2chステレオのみ、アナログ・ハーフインチテープレコーダー(STUDER A-820)を経由して、再び96kHz24BitリニアPCMで録音しています。2chWAV版のみアナログテープを用いたのは、アナログテープの質感(所謂テープコンプの感触も含めて)が、このアルバムの2chには合うような気がしたからという単純な理由によります。5.1chに関しては実に様々なアプローチがあります。今回は、わりと小さめの空間で眼前にトリオがいるという想定で作っています。従って音像は若干拡がり気味になっています。
元は同じ演奏なのですが、3つの異なるフォーマットには、それぞれの特徴を生かした処理をしてお届けすることができたのではと思っています。それぞれの特徴を簡単にまとめると、
2chDSF・・・演奏そのものの生々しさ、リアリティ
5.1chWAV・・楽器の存在感、演奏空間の心地よさ
2chWAV・・・音楽としてのまとまり、再生環境に依存しにくい汎用性
といった感じでしょうか。それぞれの聴き方にあったフォーマットを選んで聴いてもらえるとうれしいです。