Recording Report ハイレゾ制作スタッフ



 連日夏日となった今年のGWの初め、丸2日にわたって、サウンドインAstにて、林正樹トリオのレコーディングが行われました。まずは3人の位置決めです。今回はヘッドホンを使わず、生音のみを聴いて演奏することになったため、互いの音がきちんと聴こえて、バランスが取れる位置関係を探します。位置が決まったら、マイクをセッティングして、音を出してみて、それぞれの音量感・音質を確認。

最も時間をかけたのは、バスドラムの音色です。低音の響きや・余韻・アタック音の鳴り具合など、何度も試して、今回のアルバムのイメージに合う音色を作っていきます。スタジオ内での音色作り・バランスが決まると、今度は録音した音を確認して、マイクの位置・種類の変更や追加を行います。これを繰り返して、数時間かけて、全員が納得する音を作り、ようやくレコーディングが始まります。時間を気にすることなく、納得いくまで音を作りこんでいく作業は緻密で、贅沢な時間でした。


レコーディングが始まってまず感動したことは、林さんが弾くピアノのやさしい音色でした。暖かくやさしく響くピアノの音、これだけでもう、いいアルバムになるぞ、と思えたのでした。今回のレコーディングは普通のレコーディングとは違うことがありました。基本的にレコーディングは、レコーダーのプレイバックを聞きながら作業するのですが、今回は、サラウンド音源制作用にマルチチャンネルでProToolsに96kHz/24bitのPCMで録りつつ、ステレオの一発録りで、DSD 5.6MGのファイルも同時録音しています。

そのため、コントロールルームで聴いているのは、コンソール(SSL XL- 9064k)にインプットされたいわゆる「生音」です。この段階でバランスを録って、コンソールのステレオアウトをtascam DA-3000に入れて録りました。スタジオで、コンソールのインプットで音楽を聴く機会は、めったにありません。レコーダーを通っていない音って、こんなにいい音なんだなぁと、実感しました。この音をできるだけ劣化させないで、このまま聴いてもらいたい、と改めて思ったのでした。WAV音源に関しても、マルチで録っているのは、5.1chサラウンド音源を作るためで、2chステレオ音源はコンソールのステレオアウトをそのまま録音しています。

サウンドインがレーベルを立ち上げる際のコンセプトとして
○サラウンド音源を作る
○マスターコンプは使わない
という2つがあります。
というわけで、今回配信されるステレオのファイルは、“産地直送”、レコーディング時にスタジオで聴いていた「そのままの音を閉じ込めた」音源です。私がスタジオで聴いた感動を、たくさんの人に味わってもらいたいと思います。

さて、レコーディングの様子に戻りますが、どの曲もまずは演奏してみて、それを踏まえてアプローチの仕方などを3人が相談→録ってみて、コントロールルームでプレイバック→さらに話し合って、演奏→プレイバックと、これらを繰り返しながら、全員が納得するテイクが録れたら、次の曲に、という形で進みました。曲によっては、3~4テイクでOKが出たものもあれば、10テイクほどテイクを重ねた曲もあります。

とはいえ、どのテイクも素晴らしく、コントロールルームで聴いていると、「今のテイク、良かったのにー」と思うこともたくさんありました。メンバー全員が納得するまでテイクを重ね、アプローチを変えて、互いの音を聴き合って、影響しあいながら曲が出来上がっていく時間は、とても贅沢で、音楽を作るってこういうことだよなぁ、と思ったのでした。このレコーディングを通して感じたのは、音と音の隙間、音の余韻の美しさでした。その余韻が心地い緊張感を生み出しているのだと思います。繊細な音を再現できるハイレゾ配信にピッタリです。ハイレゾ音源制作のレーベル立ち上げに、この作品を作らせていただけたことを、本当にありがたいと思います。後日、WAVの2chステレオと、5.1chサラウンドのMIXがSoundInnGstにて行われました。